ニュージャージー州のオーシャンシティーは美しいビーチで有名で、「アメリカで最もすばらしいファミリーリゾート地」をスローガンに多くの観光客や地元民を集めてきた。
しかし人が集まるビーチには必ずと言ってよいほど集まってくる迷惑者、それがカモメである。人を怖がらないカモメたちはビーチの遊歩道を歩く人々が食べているピザやフライドポテト、スナック菓子などを頭上から飛んできて奪っていく。小さい子供や高齢者にとっては恐ろしい存在で、穏やかにビーチを楽しむ気持ちになれない。
2019年に市長は害鳥とも言えるカモメを駆除しようと重い腰を上げた。彼の事業管理担当であるジョージ・サヴァスタノ氏はカモメ駆除の方法を調べたが、防鳥スパイク、サウンドマシン、ネットなどは各地で試されたが効果がないようだった。
そんな折、サヴァスタノ氏はたまたま天敵の鳥を使ってカモメやカラスを追い払う動画を見つけて「これだ!」と確信。すぐさまニュージャージーを拠点に活動している「イーストコースト・ファルコン」に問い合わせた。
ファルコンとはハヤブサのことで、ハヤブサはトンビや鷹、フクロウと同様に小さい鳥を捕食するため、カモメにとっては脅威的な存在だ。
「イーストコースト・ファルコン」のオーナーであるスワンソン氏は数日後、フォード社の大きなピックアップトラックに乗ってビーチに現れた。彼は分厚いレザーの手袋をはめ、その上には白とグレーが混じった1羽のはやぶさが威厳漂うオーラで立っている。ティルダという名のこのハヤブサは北極白ハヤブサと西アメリカ草原ハヤブサのハイブリッドで、時速100マイル(160キロ)で飛ぶ強者だ。
スワンソン氏がティルダを連れて歩き出した途端に空のムードが一変した。「カモメたちが騒ぎ始めただろう。自分たちが狙われているって気付いたのさ」と微笑むスワンソン氏。
彼はサヴァスタノ氏の前で、古くから伝わる伝統的なはやぶさが人の指示に従って獲物となる鳥を囲い込む手法を見せた。訓練されたティルダは実際にカモメを捕らえて食べることはしないが、危険を感じたカモメの群れはあっという間に海の向こうへ逃げ去って行った。
こうしてオーシャンシティはハヤブサパトロールという手段で、殺さずに迷惑者のカモメたちを追い払うことに成功した。カモメたちはピザなどのジャンクフードではなく、海の魚や貝などのヘルシーな食生活に戻ったようだ。安易にカモメを駆除することは他の生態系に悪影響を与える恐れがある。天敵をうまく利用して人間から離す方法はシンプルで自然の理に適っている。
その後、ハヤブサを扱うほかの事業者も市のカモメ対策に関わりたいと名乗り出たが、市として当面はスワンソン氏のみと専属契約し、1日当たり約20万円の費用を支払っている。その報酬の高さゆえに今後ビジネス目的で野生のハヤブサが捕獲されたり、不適切な労働を強いられることのないよう注意が必要だろう。
ワールドペットニュース
ビーチに溢れる迷惑カモメ。市が講じた秘策が大成功
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