猫の好物といえばマグロだが、もともと砂漠で進化した猫が、なぜこんなにもマグロが好きなのだろうか。最近の研究でその理由が明らかになりつつある。
今月『Chemical Senses』誌に発表された研究で、科学者たちは、猫の味蕾(みらい)にはうまみを感知するのに必要な受容体があると報告した。さらにこの猫の受容体が、マグロに高濃度で含まれる分子に特異的に同調することも発見し、ネコ科の動物がほかのどの味よりもこの珍味を好む理由を明らかにした。
猫の味覚は実に独特である。糖分を感知するための重要なタンパク質がないため、糖分を味わうことができない。また、猫は人間よりも苦味の受容体が少なく、苦味もほとんど感じない。では猫は何の味に惹きつけられるのか?それはキャットフードに多く含まれる肉や魚のうまみである。
人間やほかの多くの動物では、「Tas1r1」と「Tas1r3」とよばれる2つの遺伝子が味蕾で結合してうま味を感知する。これまでの研究で、ネコの味蕾には「Tas1r3」遺伝子があることが示されていたが、もう1つがあるかどうかは不明であった。
イギリスのウォルサム・ペットケア科学研究所の味覚科学者スコット・マクグレーンを含む研究チームは、健康上の理由で安楽死させられた6歳の雄猫の舌を生検した。その結果、猫の味蕾に「Tas1r1」と「Tas1r3」遺伝子の両方が存在することが判明した。つまり、猫がうまみを感知するのに必要な分子機構をすべて備えていることがはじめて明らかにされたのだ。
さらにマクグレーンたちが25匹の猫に味覚テストを行ったところ、ネコが欲しがるのは一般的なうま味だけではなかった。マグロに特に多く含まれる化合物であるヒスチジンとイノシンリン酸を含む丼をネコは最も好んだ。「ヒスチジンとイノシンリン酸がうまみのスイート・スポットを突いているようだ」とマクグレーン氏は言う。
しかし、そもそもなぜ猫がマグロを好むのかは謎のままだ。猫は約1万年前、中東の砂漠地帯で進化を遂げたが、マグロは猫が長い時間をかけて作り上げた嗜好品だったのかもしれない。
紀元前1500年には、古代エジプトの美術品に猫が魚を食べる姿が描かれており、中世には中東のいくつかの港でネコ科の動物がマグロを含む魚を大量に食べていたという史実がある。
歴史はさておき、この研究結果は猫に関係するさまざまな産業に大きな影響力を与えるだろう。応用として、猫がより食べやすいフードを開発することができるし、スプーン一杯のうまみが猫の薬を飲みやすくするのに役立つかもしれないと、マグレイン氏は可能性を示している。
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