この冗談のようなミッションに100%本気で取り組んでいるのは、ニュージーランド北部の都市、オークランドの動物虐待防止協会(SPCA Auckland)のスタッフと、3頭の犬。もちろん、無謀とも言えるこのチャレンジに彼らが挑むのには、ちゃんとした理由がある。
虐待や遺棄により飼い主を失った動物の保護や譲渡活動を行っている同協会が、さらに多くの動物たちに里親を見つけるため、保護犬がいかに利口で、いい家庭犬になる可能性を秘めているかを証明する手段として、運転を教えることにしたのだとか。
現在トレーニング中のドライブ犬3頭も、みなレスキュー犬だ。まだ1歳にもならない最年少のポーターは、街中を放浪しているところを保護され、同協会にやってきた。ジャイアント・シュナウザーミックスのモンティは、飼い主に飼育放棄された。
唯一の女性ドライバーのギニーは、エサも与えられず、やせ細った状態で浴室に閉じ込められていたところを、警察官に助けられた。いずれも、つらい過去を背負い、同協会で新しい家族を待っている他の動物たちと大差ない、普通の犬たちだ。
トレーニングは、最終的に運転することになる専用車のドライブシートを再現した模型車を使って行われた。ハンドルやアクセル、ブレーキなどの位置と操作法をまず教える。次に、トレーナーが模型車をひもで引っ張って動かしながら、クリッカーを使って10パターンの動作と実際の車の動きを関連づけるという、非常にアナログで根気のいる訓練が、2ヶ月にわたり繰り返された。
並行して、専用車の製作も進められた。もととなる車は、このチャレンジに共感したイギリスの車メーカー「MINI」が無償提供した「MINI カントリーマン」。それを犬仕様に、すべての操作を前肢だけで行えるようカスタムした。また、犬たちに危険がないよう、遠隔操作で車を停止させることもできるようにしてあるという。
同協会は専用Facebookページ「Driving dogs」で、それぞれの過程を記録した動画を配信しているのだが、今週月曜、ついに実際に車を運転する姿が初公開された。レース場を貸しきって行われた、記念すべき第1回目のドライブは、ポーターが担当。トレーナーは同乗せず、いきなりの単独走行で華麗なドライビングテクニックを披露した(もちろん、シートベルトは着用)。
人の足でも余裕で追い抜けるほどの低速とはいえ、ポーターはトレーナーの指示に正確に反応し、コーナーに差しかかると「ターン」のかけ声に合わせ器用にハンドルを操作。コースを外れることなく綺麗にコーナーを回り、コース半周ほどの初ドライブを無事成功させたのだった。
怖がるどころか、よそ見もせず、真剣なまなざしで運転をするポーターの姿に、最初は笑ってしまったものの、そのすばらしい集中力と技術の高さに感動すら覚えた(と同時に、ペーパードライバーである自分を恥じた)。映像の最後に映し出される、「こんな利口な犬には、いい家族がふさわしい」の垂れ幕に、大きくうなずいてしまった。
初走行を終えた今、このミッションが今後どのような展開を見せるのかはわからないが、現在里親募集中の3頭に新しい家族ができるというハッピーエンドを期待したいものだ。ただし、勝手にドライブされないよう、彼らを迎える人は愛車のドアをしっかりとロックしておいたほうがいいだろうけど。
関連URL: Facebookページ Driving dogs (英語) SPCA Auckland 公式サイト(英語)