コロナ感染の拡大により、病院などで働く医療従事者は大きな負担を強いられている。しかし動物の医療に携わる獣医も同じように苦しんでいることはあまり知られていない。
アメリカやカナダでは過労やストレスによって心身の健康を害したり、離職をする獣医が増えている。コロナ禍で多くの人がペットを飼い始めたが、需要に見合うだけの獣医が足りず現職の獣医が休む時間を削って動物のケアにあたっている。
カナダで獣医として働くミシェルさんは1日12時間以上の勤務に加え、重い病気をもつ動物のケアや対応の難しい飼い主とのコミュニケーションで精神的にもかなりストレスを感じていた。ご飯を作ったり家族に電話をしたりする気力もなくなり、フルタイム勤務を辞める決断をした。現在は仕事量を自分で調整できる違うクリニックで働いているが将来への不安は拭えない。獣医の仕事は好きだがこのまま獣医が足りず、業界になんの変革もなされなかったら続けていけるかわからないと言う。
調査によるとカナダでは約30%の獣医、50%の助手が過労で働く気力を失った経験があるそうだ。動物を助けたいという高い志で獣医を目指し、大学や専門学校で懸命に学んでつかみ取った夢だが、自分を犠牲にして働き続けて燃え尽きてしまう人が多い。さらに辛いのは、彼らの多くは大学や専門学校の高い学費のローンを払いながら働いているのだ。
アメリカも同様の問題を抱えており、6人に1人の獣医が自殺を考えたことがあり、とくに女性の獣医は一般人口の2.4倍自殺によって死亡する確率が高い。実際にアメリカの獣医の80%は女性である。そして自殺の方法の多くは、職場で容易に手に入るペットの安楽死用の薬だ。動物の命を助ける立場の人が、仕事のストレスによって自らの命を絶つのは非常に悲しい。
この現状を変えようと、獣医自身による新しい動きも生まれている。国内の獣医のメンタルヘルスをサポートする機関「Veterinary Mental Health Initiative」は、オンラインや電話で相談ができる無料サービスを提供している。
獣医がもっと増え、現職の獣医が安心して働き続けられるよう、教育体制の変革や経済支援など政府を巻き込んだ変革も求められるだろう。
関連URL: Canada's veterinarians are not OK — overwork, pet owners, debt load leading to burnout