フランス北部のカレーという地域に、ペヨという名前の14歳の馬がいる。ペヨと彼の飼い主のハッセンさんはかつて、ドレッサージュという馬術競技に汗を流していた。
競技を引退した現在のペヨは、草原を駆けたり遊んだりするのが好きな、いたって普通の馬に見える。
しかし、ただひとつ他の馬にはない特別で不思議な才能を持っている。それは人間、とりわけ病気の人と心を通わせ、とても深いレベルで精神的癒しを与えられる能力だ。
月に2回、ペヨはハッセンさんとともにカレーにある総合病院や在宅医療を受けている人の家を訪れ、重症のがん患者や死が近づいている人々を見舞うボランティアを続けている。
ペヨは衛生のため毎回2時間かけて、全身の洗浄・除菌をして病院に入る。そして廊下を歩きながら見舞いたい患者の部屋を自ら決める。その日に誰が最も自分を必要としているのかを感覚で感じ取るようだ。
ペヨはゆっくり、穏やかにその患者と目を合わせ、顔や体を鼻でさすり、患者もペヨに触れてスキンシップをする。ペヨに会った患者たちはみな笑顔を取り戻し、目を輝かせ、ときに感情が溢れて涙を流すこともある。
草原で元気いっぱい走っている姿からは想像つかないほど、病院にいるペヨは穏やかで仏僧のような佇まいだと喩えられる。病院のスタッフもペヨと飼い主を同じ医療チームとして迎え、スタッフたちもまた、コロナ渦のなかでペヨに癒しをもらっている。
動画ではペヨが命が残りわずかな男性を訪れるシーンが紹介されている。何も語らずとも、目を合わせた瞬間に2人の心はつながり、男性の目から涙が溢れ出す。医師たちはその男性の表情があんなに明るく輝いたのを入院以来見たことがないと驚いた。
ペヨは患者を癒すため、手術に寄り添ったり、癌を患う母親を勇気づけたいという子供を背中にのせて母親を訪れたり、退院する患者を医師たちと共に見送ったりもしている。そしてときにはペヨを愛した患者の死にも向き合い、葬儀に参列することもある。
これまで1000人以上の患者と触れ合い、人生で最も痛く苦しい時に直面する人々に癒しと生きる喜びを与えてきたペヨ。そんなペヨを飼い主のハッセンは誇りに思い、病院訪問を通して2人の絆がさらに強まったと感じている。
「昔は家で家族に看取られて死ぬのが当たり前だった。でも今ではそれは難しく、多くの人は病院の個室で孤独に死を迎え、私たちも死をドラマのように見てしまっている。ペヨと私は、死と向かい合っている人に寄り添いこう言うのです。『心配しないで。安らかにお眠りください。あなたは決して忘れられることはありませんから』と」。
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がん患者たちと心を通わせ、癒しを与えるドクター馬
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