ダニエルはオーストラリア郊外でオートバイを走らせていた。道の両脇に広がる草原には多くの野生カンガルーたちが走ったり飛び回ったりしている。衝突しないようカンガルーの動きに注意してゆっくり運転していたとき、走っていた大人のカンガルーから何かがポトンと落ちた。なんとカンガルーの赤ちゃんが母親のお腹の袋から飛び出て地面に落ちたのだ。
ダニエルすぐにバイクを停めて様子を見に行った。地面にうごめいていたのはまだ生まれて間もない、自力でちゃんと飛び跳ねることもできない状態の赤ちゃんカンガルー。母親は落としたことにも気づかず走り去ってしまい、赤ちゃんは置き去りになっていた。
このまま死なせてはいけないという思いでダニエルは、とりあえずその赤ちゃんを自分のジャケットのなかへ入れてみることに。不思議なことに赤ちゃんは嫌がらず、自ら進んで彼のジャケットに潜り込んだ。
これからどうしよう...。ジャケットに入っているのは、その晩を生き延びれるかもわからないほど脆弱なカンガルーの赤ちゃん。なんとかして命をつなぎたい一心で、彼はガールフレンドに連絡した。
「ジャケットのなかにカンガルーの赤ちゃんを抱えてるんだけど、どうしたらいいんだろう?」
仕事に出かける10分前にダニエルからそんな非常事態の連絡を受けた彼女は、困惑しながらもカンガルーの救護をしてくれそうな場所を片っ端から調べた。そしてカンガルーを助けてくれるという女性を見つけることができた。
ダニエルは赤ちゃんが寒さで弱らないようにジャケットのなかで温めながら、そこから80キロ離れた野生動物救護施設へとバイクを走らせた。赤ちゃんは彼のお腹を蹴る元気があったものの、寒さと飢えで体力が失われるのが心配だった。「とにかく早く助けないと」という思いで、法定速度も無視してバイクを飛ばした。
やっとたどり着いた施設はまるで普通の民家のようなたたずまいだった。そこにいた施設の女性は、「ジャケットに入れてあげたのね!あなたもまるで妊娠した女性になった気分だったしょう」と笑いながらも、ダニエルが赤ちゃんカンガルーにした適切な処置に感嘆した様子だった。
赤ちゃんカンガルーはミルクを与えられ、あたたかい毛布に包まれて無事に保護された。しばらくその施設で飼育され、成長したらまた野生に戻る予定だ。
お腹で互いの体温を感じながら赤ちゃんカンガルーと80キロの道のりをともにしたダニエル。専門家に保護されて安心したが、自分の子供を手放すかのような複雑な気持ちもあったようだ。
「彼には動物の赤ちゃんと通じ合うものがあるのはわかるけど、もし家に連れて帰って世話をしてもカンガルーなんだからフェンスを飛び越えて逃げていってしまうわ。そもそもペットじゃないんだし」とガールフレンドは笑って話す。
「手放すのは寂しかったけど達成感はあった。1匹のカンガルーに生きるチャンスを与えることができたんだから」とダニエルは振り返る。
赤ちゃんカンガルーが成長して野生に戻り、どこかでまたダニエルと再会できる日が来るかもしれない。
ワールドペットニュース
バイク走行中にカンガルーの赤ちゃんを拾った男性
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